Birds,The

Alfred Hitchcock / Tippi Hedren,Rod Taylor,Jessica Tnady,Suzanne Pleshette,Veronica Cartwright / 1963

★★★★★

やはり凄い

 唐突ではあるが、アルフレッド・ヒッチコックの『鳥』である。たぶん25年振りの再見ということになる。もともとはDVDに収録されているティッピー・ヘドレンのオーディション・フィルムが目当てだったのだが、本編を見始めたら止まらなくなったという次第。

 私は、この『鳥』はヒッチコックの作品のなかではそれほど好きではなかった。私が好きなのは、『白い恐怖』(1945)を中心とした、1940年代の作品である(その後、『めまい』(1958)も大いに気に入ったが)。ただまあ、こうやって改めて見直してみると、この『鳥』は、新しい映画を中心に取り上げているこの「映画メモ」の中では、★5つを付ける以外ないような大傑作であった。『ブラッダ』の項に、クリーチャー・パニック映画が陥りがちな間違いのリストを記したことがあるが、この『鳥』はたしかにこれらの間違いのほとんどを犯していない。ただしこれは、私の映画の好みが、子供のときに見たヒッチコックやその他の人々の映画によって形成されたということを意味しているに過ぎない。

 あれから古今東西の映画をたぶん7000本ほど見て、私も大人になりました。ロッド・テイラーとティッピー・ヘドレンの大根ぶりも許せる余裕ができたし、大好きなスザンヌ・プレシェットが死ぬということだけで怒ることももはやない。メラニー・グリフィスを産んだティッピー・ヘドレンを賞賛しようじゃないか。ヴェロニカ・カートライトは『エイリアン』(1979)に出たが、妹のアンジェラ・カートライトは『ロスト・イン・スペース』(1998)にカメオ出演していた。

 『サイコ』(1960)の次の作品として、やりたい放題できる立場にあったヒッチコックは、本作でまさにやりたい放題をやっている。改めて見直して、本作のテーマが「いじわる」であるということを痛感した。ヒッチコックの映画であり、"The Birds"というタイトルなんだから、観客は誰もが本作の鳥が人間を襲うということを承知して映画館にやってくる。それなのに、頭の軽いブロンドと感情の鈍そうな男のロマンティック・コメディになりそうでならないものが延々と続く。画面に鳥は映るけれども、わかりやすく襲ってきてはくれない。バーナード・ハーマンは音響アドバイザーみたいな立場でクレジットされており、音楽は(癇にさわる小学生たちの単調な合唱を除けば)いっさい出てこないので、観客はいつ気を抜いていいのかわからず、後から振り返れば何の変哲もないショットに無用の緊張を強いられる。

 暖炉を通って部屋の中に小鳥が襲来するシーンは、あれからエスカレートしたホラー映画の現代の水準から見ても、一呼吸分だけ長くていやらしい。そしてスザンヌ・プレシェットの死体の置き方! びよーんと伸びた脚がものすごくイヤな感じで階段にのっており、上半身の状態が気になっても、ヒッチコックはいじわるをして細かいところをぜんぜん見せてくれない。ティッピー・ヘドレンに対する鳥の攻撃は、「この人はグレース・ケリーでもイングリッド・バーグマンでもありません」という感覚がみえみえのいじめ方で(彼女は1週間続いた襲撃シーンの撮影後に入院したという)、相米慎二やダリオ・アルジェントのルーツはやはりここにあると感じさせられる。

 ちなみに、DVDに収録されているティッピー・ヘドレンのオーディション・フィルムは、ものすごくいやらしい。ほとんどポルノ。そして私にとって意外だったのは、このフィルムに写っている彼女が、『鳥』と『マーニー』で見る姿よりもずっと人間味があるというか、温かい魅力があるというか、生き生きしているというか、まあそういうものだったことである。

 非常に恵まれた立場にある人の実験映画ということだろう。それは大成功を収めたが、普通の人間には真似のできない試みであったし、現在のアメリカ映画ではますますそれが不可能になっていると思われる。映画会社が許さないだろう、こんなのは。

2002/9/30

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