愛しのローズマリー

Shallow Hal

Bobby Farrelly,Peter Farrelly / Gwyneth Paltrow,Jack Black,Jason Alexander / 2001

★★★★

前衛的

 ファレリー兄弟の監督作品(『ジム・キャリーはMr.ダマー』『メリーに首ったけ』『ふたりの男とひとりの女』)。

 ブルース・マッギル演じる父親の遺言が潜在意識に植え付けられて、外見のみにこだわって美女ばかりを追い求めるようになったジャック・ブラックが、モティヴェーショナル・スピーカー(日本語で言えば「セミナー屋」)のアンソニー・ロビンスの暗示を受けて、人間の「内面の美」が見えるようになってしまう。そして誰もがブスと認めるデブの女に、グウィネス・パルトローを見て、恋をしてしまう。

 これ、恐ろしいほどイヤ〜な話になりそうだと思いません? 予告編を見た私は、そういうイヤ〜な映画になっているものだと思い込んでいた。ところが実際に見てみると、本作は人間の美醜という問題に、いままで見たことがないほど深いレベルにまで切り込んだ映画であった。これは凄いとしか言いようがない。以下、ネタバレを多く含んでいる。

 「人間の美醜は本質的でない」、「人間は外見だけじゃない」という主題の映画で、その内面の美しさの象徴として、外見が美しいグウィネス・パルトローを持ってきているのである(実際、本作のグウィネス・パルトローは凄くチャーミングである)。そして、内面が汚い人間の象徴として、普通の意味での「醜い人」を持ってきているのである。これは観客に対する挑戦である。「なんだかんだいって、このグウィネス・パルトローは美しいと思うでしょ? そして、この醜い人は醜いと思うでしょ? デブは醜いでしょ? 身体障害者は醜いでしょ?」と突きつけている。ここまで過激なことを観客に突きつける映画は(また芸術作品一般は)そうそう見たことがない。

 さらに、スーザン・ウォード演じる隣人のイケイケネエチャンの設定が凄い。この人は、外見しか見ていなかったジャック・ブラックがアタックした(そして敗退した)だけあって、一般的な意味でのゴージャスな美女なのだが、人間の内面が見えるようになった彼にもまったく同じように見えるのである。そしてジャック・ブラックとの夕食のシーンで、彼女が「タカビー」な感じで彼を拒絶したのは、彼の方が浅薄な男であると思ったからだという、しごくまっとうな理由が提示される。ジャック・ブラックとしては、外見と内面がまったく同じように美しいこの女性こそを選ぶべきなのかもしれない。それでも彼はあえて、外見がダメなことがわかっているグウィネス・パルトローを選ぶ。

 この設定があるからこそ、「外見の美醜は恋には関係ない」というテーマが本当に活きてくるのだ。このタイプの物語では、「外見がよくても内面がダメならダメ」という教訓が語られる(『恋は負けない』の第2項も参照されたい)。ところが多くの場合、それは「外見は美男/美女だったが、内面は物凄く嫌な奴だったので、外見がダメだが内面がいい人を選びました」という形で語られ、その方程式に「外見と内面の両方がいい人」が加わったらどうなるのかという問題は、あまりにも厄介なため、都合よく回避される。しかし本作は、スーザン・ウォード演じるキャラクターのおかげで、この問題に明解な答えが提示されている。「外見は本当に関係ない」のだ。

 実際、「人は外見じゃなくて内面だ」という教訓話には、ほとんどの場合、「この人は外見がダメだけど……」という枕詞がついて回る。また、小説の場合には筆力でなんとかする方法もあるけれども、視覚表現に頼る映画においては、内面の美しささえ、外見で表現せざるをえない。「顔の造作は変だけど、表情がイキイキとしている」とかね。ところが本作は、内面の美しさを最初から外見の美しさで表現することによって、このタイプの物語に潜んでいる差別的な外見重視を相対化しているのだ。

 以前から障害者ネタや醜女・醜男ネタをよく使うファレリー兄弟だったが、本作を見て、この人たちの倫理の強靱さを確信することができた。暗示の下にあったジャック・ブラックが美しいと思った人々の「現実」の姿を、ためらうことなく、一般的な醜さとして表現できるのは、そうとう腰が据わっている証拠である(特に病院の少女は素晴らしい。なお、タクシーに同乗した女性の真の姿が醜いとされるのは出っ歯のためであり、日本人は違和感を覚えることだろう)。映画としては、ところどころテンポがおかしくなるところがあるが、めったにない倫理的にラディカルな映画であるということで★5つとする。

2002/10/10

 「隣の女性の姿が変わらないのは、以前から知っている人の姿は変わらないという設定になっているからではないか」という指摘を受けた。たしかにそんな気がしてきた。そうだとすると、上に書いたことは勘違いもいいところである。

 われながら物凄い外しっぷりだ。★5つから★4つにダウングレードすることにした。

2002/10/26

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