9/11

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Jules Naudet,Gedeon Naudet,James Hanlon / ドキュメンタリー / 2002

★★★★★

驚くべき内容

 CBSで放映されたドキュメンタリー。DVDには"The Filmmakers' Commemorative DVD Edition"という名前が付けられており、たぶん放映されたものとバージョンは違う。放映バージョンではロバート・デ・ニーロによる解説があったようだが、DVDには入っていない。また、IMDBでは放映バージョンが112分となっているのに対し、DVDバージョンは129分である。amazon.comのDVDの製品ページ。DVDはリージョン1なので注意されたい。

 本作は、「ドキュメンタリー映画として質が高いか」という問題とは別に、その作られた経緯が★5つに値する。

 フランス人の兄弟、Jules NaudetとGedeon Naudetは、2001年春に、ニューヨークの消防士を追いかけるドキュメンタリー映画を撮り始める。具体的には、消防士の学校を取材し、そこで見つけた有望そうな新人(21歳のTony Benetatosという青年)が成長していく姿を密着取材する作品を作ろうとする。その新人は、マンハッタンの、WTCタワーから数ブロック離れた消防署に配属されたので、兄弟はその消防署に入り込み、消防士たちの日常を追いかける。

 新人にはblack crowとwhite crowの2種類がある、という。配属されてすぐに火事に「恵まれる」黒いカラスと、なかなか火事に巡り会えない白いカラスである。Tonyは白いカラスで、なかなか出動の機会がなく、署の掃除や料理をするだけで日々が過ぎていく(このあたりの描写は、『サード・ウォッチ』にそっくりだった。消防士たちは実際にあのような生活を送っているようだ)。ようやく出動できたと思ったら、それは自動車の火事だった。Tonyはカメラに向かって、「そろそろ本格的な火事に出会いたいよ」などと冗談を言う。製作者の兄弟たちは、料理の場面を撮った映像ばかりが溜まっていくことに焦りを感じ始める。

 そして、9月11日がやってくる。最初の旅客機がノース・タワーに突っ込んだところを捉えた有名な(そしておそらく唯一の)映像は、この映画の作者の片割れが、撮影の練習のために、ガス漏れの調査に出た署長に同行したときに撮ったものである。その後、この人は署長に同行し、ノース・タワーのロビー内の様子を撮影し(『9月11日の英雄たち』は、このときノース・タワーに登っていった消防士による手記だった)、サウス・タワーが崩壊したときにノース・タワー内にいた唯一のカメラマンとして、かなり恐ろしい映像を撮る。

 その間、兄弟の片割れは、現場に近づくことができないまま、周囲の人々の様子を撮影し、タワーの崩壊後の粉塵に巻き込まれ、どうしようもないまま消防署に戻って、帰ってくる消防士たちの憔悴した姿をカメラに収める。

 オリジナルの映像だけで事件の推移がほぼ語れてしまうという、稀に見ない幸運(?)に恵まれた映像作家ということになるだろう。細かいことを言っても無駄である(たとえば消防署で兄弟が再会して抱き合うところは誰が撮ったの? とか)。消防隊付き神父のマイケル・ジャッジがノース・タワーのロビーで祈っている様子、タワーの上階から身を投げた人々が地面にたたきつけられるときに生じる音に反応する消防士たちの表情などを記録した映像は、生命のリスクと引き換えにして得た貴重な記録だ。しかし、これは本質的にプロフェッショナルのカメラマンが行こうとしない、または行けない場所に入り込んだアマチュア・カメラマンの仕事であるといえる。

 慎重に計画された作品よりも、偶然にそこにカメラがあったからという理由で撮られた映像の方にインパクトがあるのは、記録映画の宿命なのかもしれない。今後、ビデオ・カメラがますます普及し、このような事情で撮影されてしまった映像が増えていくと思われる。原子力発電所のような危なそうな場所に勤めている方は、ビデオ・カメラを職場に用意しておくと、いざというときに重宝するだろう。

 ただし、本作の編集はきわめてプロフェッショナルに行われている。今回同時に見たいくつかのドキュメンタリー(CNNの『CNN Tribute - America Remembers』、HBOの『In Memoriam: New York City』)が、程度の差はあれマニピュレーティブな編集を行っていたのとは対照的に、本作品はあくまでも事実を捉えるドキュメンタリーとしての基本路線を守り、自分たちのカメラが捉えた映像のみを使って、2001年9月11日の出来事を消防士たちがどのように体験したかを追っていく。この禁欲的な姿勢は賛美すべきである(まあ、フランス人(カナダ人かもしれないが)なんだから当たり前なのかもしれないが)。

2002/10/18

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