松浦シングルMクリップス(1)

松浦シングルMクリップス(1)

ミュージック・ビデオ / 松浦亜弥 / 2002

★★★★★

いや〜

 松浦亜弥という「アイドル」のミュージック・ビデオ集。「ドッキドキ! LOVEメール」、「トロピカール恋して〜る」、「LOVE涙色」、「100回のKISS」、「桃色片想い」、「Yeah! めっちゃホリディ」の6曲が入っている。私はよく知らないが、つんくのプロデュースによるアイドルで、世の中ではアイドル・サイボーグと呼ばれることがあるらしい。

 私は「アイドル」の世界については何も知らないといってよく、関連があるらしい「モーニング娘。」がいったい何なのかもよくわかっていない。この松浦亜弥についても、このクリップ集を見るまでは、名前を見たことがあったかもしれないが定かではない、というていどであった。以下の文章は、年に1回ぐらい映画を見る人が、スティーヴン・スピルバーグの大作を見て感想を書いた、という類のものであると最初に断っておく。この映画メモで、見たものすべてについて書くという縛りを作っているのは、こういうものを見てしまったときに日和見して書かないというようなことが起こらないようにするためである。

 でまあ、驚いたわけです。この人をフォローしていた人が、デビュー後1年ぐらいかけて感じた驚きのエッセンスを30分で体験したということでしょうか。知らない人のために簡単に説明すると、「アイドル」というものを類型化し、個々のタイプを演じるということを意識的にやっている人、ということになる。そのあまりの客観性が、アイドル・サイボーグという渾名の由来らしい。このDVDには6本のクリップが入っているが、そのいずれにおいても松浦亜弥は複数のキャラクターを演じていて、そのパターン(6 x n)がすべて違い、なおかつ自然に見える。音楽は面白いものではないけれども、ビデオ作品として、ピーター・セラーズの主演作やゲイリー・オールドマンの出演作に似た感動があった(少し話をおおげさにしています)。

 DVDにはメイキング映像を交えたインタビューが入っており、そこでの松浦亜弥はクリップに出ているどの人とも違う人物である。1つ1つの質問に対する回答が、構文的にも意味論的にも、またファンのためのボーナス映像というコンテキストにおいても、不自然なほど正しく的確である。用意されている文章を読んでいるという感じはしなかったが、仮に用意されていたのだったら、こんどはそれをその場で思いついたかのように語る演技力が凄いと言わざるをえない。

 これはいったい何なのだろうと思い、2002年春に行われたコンサートの模様を収録している「松浦亜弥ファーストデート」というDVDも買った。すると画面に現れたのは、歌と踊りがあまりうまくない地味な顔の女の子が、元気いっぱい飛び跳ねている映像だった(その他、全体的に耐えがたいものが続くので、ほとんど見ていない)。この落差は、ファンの間で、松浦亜弥のアイドルとしての神話をいっそう強化する方向に働いているのだろうか。私が思ったのはこんなことである。スーパーマンのクリストファー・リーヴ(首を怪我する前)やスパイダーマンのトビー・マガイアや600万ドルの男のリー・メジャーズが、チャリティー会場に現れたとき、人はこれらの役者たちが宙を飛べないからといって失望することはしない。生身のクリストファー・リーヴは、映画の中でのセリフを言ってみせることはできるが、空を飛びながらそれを言うことはない。あれはSFXなのである。それと同じように、松浦亜弥のビデオ・クリップは、その歌も踊りも表情も含めてすべてがSFXであり、落差があればあるほど、それは松浦亜弥(と制作スタッフ)のアーティスティックな才能として認識されることになる。

 個人的には、映像作品としてミュージック・ビデオみたいな作りで欲求不満が残ったが、これはミュージック・ビデオなので文句を言うわけにもいかない。また、プロモーションのメディアとしてのビデオ・クリップが、視聴者の欲求不満をかき立てることを目的としているのだということも今回よ〜くわかった。

2002/12/13

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ