リトル・ヴォイス

Little Voice

Mark Herman / Jane Horrocks,Brenda Blethyn,Ewan McGregor,Philip Jackson,Annette Badland,Michael Caine,Jim Broadbent / 1998

★★★★

複雑な気持ちではあるが、支持せざるをえない

 監督のマーク・ハーマンは『ブラス』の人。父親が死んで以来引きこもっている、小さい声でしか話さない(しかもめったに口を開かない)がゆえにLV(リトル・ヴォイス)と呼ばれ、父親のレコード・コレクションを繰り返して聴いてばかりいる少女が、実は歌がうまかったというおとぎ話。

 この映画はとても出来が悪い。おそらく作者に映画的感性がないということなんだろうと思う。それにもかかわらず、この映画の出演者たちは、LVを演じるジェーン・ホロックスを初めとして、全員が素晴らしいのだ。こんなに素晴らしいキャストを得て、ここまで映画をへなへなにしてしまうのは犯罪的といってもいいのではないか。

 まあいずれにしても、この映画はジェーン・ホロックスという存在だけで成り立ってしまえるのである。映画の中で、何か「素晴らしいパフォーマンス」が行われるという設定が作られるとき、そのパフォーマンスに説得力を持たせるのは非常に難しいものだが、このジェーン・ホロックスのパフォーマンスは、映画にどれほど邪魔をされても、圧倒的な説得力を持っている。これまでのキャリアの中で、この映画のもととなった舞台に出るまで、この方面でのスキルをほとんど使っていなかったということが驚きだ。

 彼女は、父親が好きだった女性歌手たちの物まねをして歌う。物まねそのものはそれほど似ているわけではないが、レパートリーが広く、なおかつそれがちゃんとした歌になっているというところが何ともすごい。

 そういうわけで、映画館で売っていたサントラのCDを買ったのだが、これがまた詐欺といっていいようなもので、彼女の歌は2曲しか入っていない。最初にマイケル・ケインに歌を披露するときの"I Wanna be Loved by You"と、舞台上で最後に歌う"Get Happy"で、それ以外は彼女が聴いていたもろもろの音楽のオリジナルが入っているのである。私はジュディ・ガーランドとかマリリン・モンローとかエセル・マーマンのレコードを買い集めていたという、まさにLVの父親のようなタイプの人間なので、オリジナルの音源はもういらないのだ。まあシャーリー・バッシーとトム・ジョーンズは持っていないけど。

 私が特に聴きたかったのは、LVがステージで歌うメドレー(というか、映画が無残にも彼女の歌をちょんぎっていたところ)で、特にマレーネ・ディートリッヒとシャーリー・マクレーンの物まねをしているナンバーが気になっていた。率直にいうと、"I Wanna be Loved by You"と"Get Happy"はこの映画での彼女の最高のパフォーマンスではない。まああんなこんなで、この映画のことを考えれば考えるほど気持ちが沈んでいくのだ。

 追記。おそらくこの映画の作者は、歌の才能を見いだされたLVが結局は歌わないということに意味を持たせようとしている。そのためには、彼女が歌うところが美しく撮られていなくてはならない。それなのに、歌の場面はことごとく下手というか平凡で、その割りにジェーン・ホロックスがあまりに良いため、映画が歌に格で負けているのだ。映画としてのトリックを仕掛けるのは10年早い。せめてLVが最初に"Over the Rainbow"を歌い始めるまでのシーケンスをちゃんと作れるぐらいになってから、あるいは、LVの舞台で伴奏を行う楽団のショットをまともな位置にまともな形で挿入できるようになってから、小細工をすればよい。彼はこの映画を撮ることで、もっといいものになったはずの『リトル・ヴォイス』の他のバージョンを殺したのである。その罪は非常に重い。

1999/11/21

IMDBの該当ページへ

検索ページへ 目次へ 前へ 次へ