お勧め映画、第4回、ミュージカル映画篇

 第4回の「お勧め映画」は、ミュージカル映画をあまり見たことがない人のためのガイドです。『雨に唄えば』、『バンド・ワゴン』、『サウンド・オブ・ミュージック』、『ウェスト・サイド物語』などは見ているが、その次の一歩を踏み出すための指針が欲しいという人を対象とします。そんな人がこの世の中にどれほどいるのかわかりませんが、あまりマニアックでないものを選んだということです。

 ビデオや映画専門チャンネルの充実のおかげで、ミュージカル映画に限らず、古い映画ははるかに見やすくなっています。いまから映画を見る人は非常に恵まれているのであり、このチャンスを徹底的に活かすべきでしょう。

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『四十二番街』"42nd Street" (1933) ★★
この映画は有名ですが、あまり大したことはありません。コレオグラファーのバズビー・バークレイの初期の代表作で、比較的簡単に見られるという理由から選びました。この時点のタップのダサさを示す歴史的な証拠として。いまの時代にこの手のものをもっと見たいと思う人が多くいるとは思えないのですが、関心を抱いた方は、この頃のディック・パウエル主演もの、『ゴールド・ディガーズ』"Gold Diggers of 1933" (1933)、『フットライト・パレード』"Footlight Parade"(1934)などを追いかけることをお勧めします。『フォー・エヴァー・ライフ/旅立ちの朝』には、グレン・クロースが、ディック・パウエルに、エイズを患っている息子のロバート・ショーン・レナードの姿を重ねて見てしまうというエピソードがありました。

『有頂天時代』"Swing Time" (1936) ★★★★★
いわゆるアステア=ロジャーズものの代表作です。この2人が主演している映画はたぶんすべてビデオで見られると思うので、迷うことなく全作見るべきです。私は、実在したダンサーの伝記映画であるがゆえに、いつもとは違う踊りを強いられている『カッスル夫妻』"The Story of Vernon and Irene Castle" (1941)がかなり好きでしたが、普通は『トップ・ハット』 "Top Hat" (1935)や『踊らん哉』"Shall We Dance" (1937)が高く評価されているようです。

『カヴァー・ガール』"Cover Girl" (1944) ★★★★
ミュージカル女優としてのリタ・ヘイワース、彼女よりも位の低いジーン・ケリー、そしてコレオグラファーとしてのスタンリー・ドーネン。リタ・ヘイワース以外に注目すべきこの時期のミュージカル女優には、ジューン・アリスン、エレノア・パウエル、ベティ・グレイブル、キャスリン・グレイスン、リナ・ホーン、ジュディ・ガーランドなどがいます。私はジューン・アリスンが好きなのですが、なかなか見るのが難しいです。なお、こういう映画を見ておかないと、『夜の豹』"Pal Joy" (1957)の、リタ・ヘイワースとキム・ノヴァクの対決の意味が理解できません。

『世紀の女王』"Bathing Beauty" (1944) ★★★★
エスター・ウィリアムスの映画はぜひ見ておかなくてはなりませんが、1本見れば十分という感じもします。主演女優が水着で泳ぐシーンだけで映画が作れたいい時代。レッド・スケルトンの活躍も見ることができます。その他の、ときどきミュージカル映画と交差してくる重要なコメディ俳優には、ダニー・ケイ、ボブ・ホープなどがいます。

『ジーグフェルド・フォリーズ』 "Ziegfeld Follies" (1945) ★★★★
この時期のMGMのトップ・スターたちが勢揃いしているオムニバス形式の映画。フレッド・アステアとジーン・ケリーが唯一共演した映画として有名です(『ザッツ・エンタテインメント』を除く)。日本未公開だったせいか、あまり取り上げられることのない映画ですが、1940年代後半のMGMミュージカルの雰囲気を知るのに適していると思います。

『ハーヴェイ・ガールズ』 "The Harvey Girls" (1946) ★★★★
ジュディ・ガーランド主演作品。本当ならばミッキー・ルーニーとの共演作を選ぶべきなんでしょうが、私自身、どれを見ていてどれを見ていないのか完全に忘れてしまっているもので。多くの人にとって、『オズの魔法使い』の可愛らしさと、晩年のくたびれた姿の間のジュディ・ガーランドのイメージは空白になっているのではないかと思いますが、全生涯にわたって興味深い人です。

『踊る大紐育』"On The Town" (1949) ★★★★★
私見では、ジーン・ケリーの最高傑作。この映画にはフランク・シナトラ、アン・ミラー、ヴェラ・エレンといった重要人物が出ていますが、特にジーン・ケリーとヴェラ・エレンが2人で踊る"Main Street"は、ジーン・ケリーが女優と2人で踊ったシーンの中で最高の部類に属すると思っています。この時期のジーン・ケリー主演作には重要作品が多い。

『ベル・オブ・ニューヨーク』"Belle of New York" (1952) ★★★★★
フレッド・アステアとヴェラ・エレンの映画。私見では、ヴェラ・エレンの最高傑作。美しいダンス・シーンが3つ4つ入っています。この時期のフレッド・アステア主演作には重要作品が多い。

『キス・ミー・ケイト』"Kiss Me Kate" (1953) ★★★★
ハリウッド・ミュージカルにメインストリームのモダン・ダンスが入ってきたという徴候。後にコレオグラファー/映画監督となるボブ・フォッシーがダンサーとして出ているので有名ですが、キャスリン・グレイソンとハワード・キールという歌手のスターと、アン・ミラーというダンサーの組み合わせというパターンの、バランスがよく取れている作品の1つと言えます。

『回転木馬』"Carousel" (1955) ★★★★
ダンスを中心としていないブロードウェイ・ミュージカルの移植の先がけ。このトレンドが、ハリウッド・ミュージカルを殺したといえます。ゴードン・マックレーとシャーリー・ジョーンズの組み合わせは『オクラホマ!』"Oklahoma!" (1955)もそうですが、私はこちらの方が好きで、サウンドトラックを繰り返して聴いたものでした。

『上流社会』"High Society" (1956) ★★★★
ちょっと遅くなったけれども、ビング・クロスビー。歌中心のミュージカル映画の重要人物で、この映画ではもう年を食っている重鎮。このタイプの映画の成熟というか、末期症状というか、そういうものです。なおこの映画は、結婚引退を控えたグレース・ケリーが、そのキャリアを通して唯一チャーミングに見えた映画として私の記憶に残っています。フランク・シナトラはすでに老いはじめています。

『夜は夜もすがら』"Anything Goes" (1956) ★★★
それほど良い出来ではありませんが、私はミッチー・ゲイナーのファンでして、彼女の出演作の中ではこれが一番なんじゃないかと思っているものでピックアップしました。基本的にビング・クロスビー主演作品ですが、ドナルド・オコナー、ジジ・ジャンメールが脇を固めています。

『バイ・バイ・バーディー』"Bye Bye Birdie" (1963) ★★★★★
「初めてのロック・ミュージカル」とされる舞台作品の映画化。アン=マーグレットの強烈さだけでも見る価値があります。なお、前後してエルヴィス・プレスリーものがたくさん作られていますが、あまり面白いものはないにしても、見ておいて損はありません。やはりアン=・マーグレットが出ている『ラスベガス万才』"Viva Las Vegas" (1963)は良いです。

『不沈のモリー・ブラウン』"The Unsinkable Molly Brown" (1964) ★★★★
デビー・レイノルズの主演作品。開き直り路線に入ったころで、パワフルなエンタテイナーとしての魅力が満開です。実はそれほど大したものじゃないのですが、デビー・レイノルズ・ファンなら見ておかなくてはなりません。なお、『雨に唄えば』の翌年にドナルド・オコナーと共演した"I Love Melvin" (1953)はかなり良いです。踊りが少し上手になっている。

『マイ・フェア・レディ』"My Fair Lady" (1964) ★★★
有名ですが、ハリウッド・ミュージカルの死を最終的に宣告した映画として敢えて取り上げます。この映画のオードリー・ヘップバーンの吹き替えをやったマーニー・ニクソンは、この他に、『王様と私』"The King and I" (1956)のデボラ・カー、『ウェスト・サイド物語』"West Side Story" (1961)のナタリー・ウッドを吹き替えており、また『サウンド・オブ・ミュージック』"The Sound of Music" (1965)で尼僧の役で出演しています。オードリーの役を舞台で演じていたのはジュリー・アンドリュースなので、そのサントラも聴きましょう。

『ハロー・ドーリー』"Hello Dolly" (1969) ★★★
死んだ後のハリウッド・ミュージカルを一時的に支えた女優として、バーブラ・ストライサンドは無視できないでしょう。『イン&アウト』では、主人公のケヴィン・クラインが『ファニー・ガール』が好きだという設定が有効に(!?)使われていました。その他、ジュリー・アンドリュースとか、ちょっとスケールが小さくてペトゥラ・クラークなど。

『キャバレー』"Cabaret" (1972) ★★★★★
ボブ・フォッシーの問題作。ライザ・ミネリのいまに至るまでの代表作。しかし、これは普通の映画の領域に入っているという気がします。彼の監督作品はいずれも見るに値しますが、特に『オール・ザット・ジャズ』"All That Jazz" (1979)は背筋がぞぞっとしました。残念なことにミュージカルではない『スター80』"Star 80" (1983)が遺作となりました。

『ジーザズ・クライスト・スーパースター』"Jesus Christ Superstar" (1973) ★★★
映画としてはつまらないが、ロック・オペラの代表作。

『トミー』"Tommy" (1974) ★★★★★
これは現代的なロック・オペラであるというだけでなく、(アーティスティックな)ミュージック・ビデオの先がけとして思い出されるようになるんではないかと、いまふと思いました(というか、すでにそうなってる?)。ケン・ラッセル恐るべし。アン=マーグレットの色気にも注目。

『ザナドゥ』"Xanadu" (1980) ★★★★★
一般にあまり評価は高くないようですが、ミュージカル映画不作の時代にいきなり現れた、「ハリウッド・ミュージカル」を現代に蘇生させようという試みとして断固支持します。オリヴィア・ニュートン=ジョンの硬直したタップが、老いたジーン・ケリーに変な感じでマッチしていて、涙なしには見られません。

とりあえず、これで終わります。重要作品と重要人物がずいぶんと抜け落ちていますが、また別の機会に追加することにしましょう。ヨーロッパと日本にも重要なミュージカル作品はありますが、現在でも見るのが難しいものが多いようです。

ここに挙げたものは、映画としても比較的出来が良いものですが、その背後には大量の大して面白くない、しかしそれらを見ていないと、これらがなぜ良いのかがわからなくなるような映画が存在します。そういうわけで、私としては、「いい映画」だけを選んで見ることはお勧めしません。重要な1950年代のミュージカル映画を無差別的に見ることをお勧めします。そこから徐々に時代を遡っていけばよいでしょう。

1980年代以降は長く不毛の時代が続いています。1984年の『ブレイクダンス』"Breakin'"あたりから、いまではオールド・スクールのヒップホップ・ダンスと呼ばれるようなブレイクダンスを使った映画が散見されるようになりましたが、残念ながら本格的に取り入れているのは、この『ブレイクダンス』とその続篇『ブレイクダンス2』"Electric-Boogaloo Is Breakin' 2"(1984)ぐらいしかないようです(ちなみに両作品ともにかなり良い)。タップ・ダンスではグレゴリー・ハインズが有名になりましたが、テイラー・ハックフォード監督でバリシニコフと共演した『ホワイトナイツ/白夜』"White Nights" (1985)がそこそこ良かったものの、ニック・キャッスル(同名のコレオグラファーの息子!!)の『タップ』"Tap" (1989)がまったくダメでした。そもそも、ミュージック・ビデオの影響で、ダンサーの踊りをちゃんと撮るという技術と意思が失われたのが敗因です。ウディ・アレンは『世界中がアイ・ラブ・ユー』などに50年代ハリウッド・ミュージカルへの思いを込めていますが、敗北主義的かつ後退的としか言えないような作り(それでも救いではあるのですが)。『リトル・ヴォイス』は、主演のジェーン・ホロックスは素晴らしいのに、作者は彼女の才能を殺すという意図を持って映画を作っていました(ただしこれはイギリス映画)。

なお私は、ヴェラ・エレン、ミッチー・ゲイナー、アン・ミラー、デビー・レイノルズ、アン=マーグレット、ペトゥラ・クラークのファンです。だからどうだというわけではありませんが、いちおう主張しておきます。

2000/6/16

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